都会のネズミと田舎のネズミ

読書ネタ、スポーツネタ、お笑いネタ、時事ネタを拾いながら、笑いの方向へと導きます。3打数1安打を目指しています。ハズレよりもアタリを読んでください。

奔流の海

幼少のみぎり、Sっ気の強い母は、言うことを聞かなかった私に対し、

「お前は本当はウチの子どもではない。橋の下で泣いていたのを拾ってきたのだ。だけど、もう限界。これ以上は育て続けられないので出ていきなさい!」

とリュックを背負わせた上で、その中に缶詰を詰め込みました。しばらくは、これで食いつなぎなさいと。

幼稚園に通う前だったと思いますが、この仕打ちはキツい。体罰よりもメンタルをやられます。必死に涙を堪えながら、絞り出します。

「か、缶切りがありません」

この話、今だったらとんでもない幼児虐待であり、聞かされた側も引いてしまうかもしれませんが、当時の認識では、子どもは親の支配下におかれており、生死に関わるようなことでなければ、結構アリだとされていました。引っ叩く、蹴っ飛ばすなんてのも日常茶飯です。理屈が通じないから、身体で覚えさせる。そういう試練をくぐらせると耐性が出来上がります。腐りかけたものを食べているうちに、簡単に腹を壊さなくなるのと同じような話。まぁ、こんなことを言ってると、相手にされなくなりますけどね。缶詰で鍛えられると、結構いろんなことが平気になったりする。ズレてるのは承知の上です。

 

『奔流の海』(伊岡瞬著・文春文庫)は、幼児期に父親から自動車への当たり屋を強要されていた主人公と台風で父親を亡くした旅館の娘との出会いを通じて、激流に飲まれた数奇な運命を描いています。親ガチャという言葉が浮かびました。最後は伊岡作品としては珍しく、きれいにまとまっています。後味がとても良かったです。

 

【テーマ】タイトル・時代性・学習性 16点

【文章技巧】読みやすさ・バランス 17点

【人物描写】キャラクター・心理描写・思い入れ 15点

【構成】つかみ・意外性・スピード感 16点

【読後感】共感性・爽快感・リアリティ・オススメ度 18点

【合計】82点