最近、UーNEXTの映画が観られるようになったので、一日一本のペースで視聴しています。
昨日観たのは、宮沢りえ主演の『紙の月』(2014年・松竹)です。
人が死なないサスペンスものは、余計にリアリティーがあるものだと思いました。いや、役者の技量もなかなかでして、小林聡美の冷めた感じや大島優子が思いの外、剥き出しの演技で、良い作品に仕上がっています。
テーマは、平凡だけど幸せに暮らしている主婦が、犯罪に手を染めていく心の動きにありまして、連日、普段は手にすることのない巨額のお金を動かしていると、おかしな考えが生まれていく銀行あるあるもだと納得させてくれます。だからこそ、銀行は性悪説に基づく二重三重のチェック体制を敷くわけで、行員に早めの結婚を勧めるのも、その一環にあります。暴走させない仕組み。
それでもなお、犯罪に手を染めようとする女性行員が後を絶たないのは何故なのか?男性じゃなくて、女性。原作者の角田光代氏は、そこのところに切り込んでいます。
企業の中で、多くの男性は出世を目指します。だから、評価がとても気になる。その客観性を求めるため、情報を集めます。それが、サラリーマンの相互監視システム。だけど、女性の中には、他人の評価を全く気にしない人がいます。そういう人が、目立たないようにしていると、いないみたいになる。こういうのが、ヤバいんですね。いるんだけど、いない。
『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治著・新潮新書)によれば、世の中には、一見普通に見えるけど、極端に想像力が欠けている人がいるんだそうです。そういう人は、消費者金融からお金を借りたり、銀行強盗をしたりして、お金を工面した後、その先がどうなるかというところまで、考えが至らないと言います。一種の発達障害です。なるほど、多くの人は、そこで踏み止まることができるけど、認知機能が弱ければ、歯止めがきかなくなると、そういうことです。
いろんな事件が起こるのは、そんな背景がありました。
この本は、ミステリーファン必見の書です。テーマが陰気でちょっと怖いところを引いて、90点。