前職の保険会社で支払い部門にいたときのことです。
産業能率大学が行っているマーケティング・ゼミの受講者を社内募集していました。
本来は営業関連部門に向けたものだったのですが、僅か3名の定員に満たず、事務部門にまで間口を拡げてきたのです。
半年で40万円もするようなセミナーを会社が負担してくれるにも関わらず、希望者がいないというのは、不思議に思えるかもしれませんが、当時の会社は日の出の勢いで、待遇も含めていろんなことに恵まれており、勉強なんてとんでもないといった空気だったのです。
そんな中、私は自分の業務にマンネリを感じており、気分転換のつもりで手を挙げました。
いい加減なもんですよね。とくに問題意識があるわけじゃないのに。
予算が余った年度末の工事みたいな感じで、週に一度、表参道にあるスクールに通い続けたのです。
これが…
場違いでした。
参加者は日本を代表するような企業の、そしてその会社を代表するようなエリートビジネスマンばかり。
そりゃ、そうですね。会社が40万円も投資するんだから。
先生の質問には、みんなスラスラ答えます。
私はといえば、明らかな劣等生でヘラヘラ笑いながら、トンチンカンな受け答えに終始し、同じ会社から参加していたS氏に助けを求める日々でありました。
このとき渡された分厚い教科書が『マーケティング・エッセンシャルズ』です。
この本は、現代マーケティング理論の第一人者として知られるフィリップ・コトラーという人によるもので、全600ページというボリュームもさることながら、翻訳ものであることも手伝って、素人には分かりにくいことこの上ない代物でありました。
実際の業務に重ならない事例ばかりですからね。
法律に全く興味のない学生が、法学部の授業に出ているようなものです。
毎週出され宿題に四苦八苦しながらも、どうにか誤魔化して卒業へ向かうわけですが、最後に難関が待ち構えていました。
卒論の提出です。
(つづく)